2008年2月2日土曜日

平成20年 2月

入選   渡部直美

〇百十歳(ひゃくとお)の肌から見える紫暗色優しく包み一緒に歩く

(講評)介護実習で介護老人福祉施設の利用者(高齢者)との一コマである。二、三句に齢(よわい)深まる利用者の状態が、また作者の心境が重なる。「優しく包み」に利用者への心配りがさり気なく出ている。

入選   今井裕加

〇「大丈夫?」その一言でホッとする地震の後の友の声

(講評)2007年7月16日に起こった新潟県中越沖地震での友の安否を気遣った作品である。リアルタイムの出来事をテーマにし、すっと胸に入ってくる歌の良さがある。

入選   野口祐希

〇我が地元小さな町ではあるけれど俺の人生ここから始まった

(講評)学生の頃は、「人間とは何か、私とは何か」という根源的な問いかけを自分自身にしてみたりする。作者からは自分の生まれ育ったルーツを誇りとし、前進していこうとする姿勢が詠みとれる。二句の「小さな町では」に温もりをおぼえ、結句の「ここから始まる」に作者の決意がうかがえる。

入選   増井美佳

〇送信のボタンなかなか押せなくて作ったメール結局削除

(講評)Eメールを交わしても、友達とつながっているような離れているような感じがある。「なかなか」に作者の片思い感が目にうかび、結句の「結局削除」にユーモラス感があり微笑ましい。

入選   堀川恵理奈

〇赤信号あなたとわたし二人きりもう少しだけ傍にいさせて

(講評)哲学者のマルティン・ブーバーは、「我と汝(われとなんじ)」、人と人との関係は「私とあなた」の関係といっている。つまり、対象と自分を関係性として捉えることを説いている。この歌の作者は、手探りで相手のことを知り始めたということであろうか。信号待ちの間、二人の心がぴたりと重なっている風景がいとおしく感じられる。「もう少しだけ」に、相手にもう一歩踏み込もうとする作者の初々しさがうかがえる。

入選   小林綾子

〇ありがとうぐっとくるなこの言葉笑顔でかえす君へのお礼

(講評)感謝の心を大切にしようと思う作者の気持ちがよく出ている。「ありがとう」は、いい言葉である。

以上、選評  土永典明