2012年12月6日木曜日

平成24年12月

入選   石津愛子

〇動かない手足に老いは愚痴言わず私の体気遣う優しさ

(講評)「袖振り合うも多生の縁」。この利用者の行動は、母親が子どもに注ぐ無償の愛である。

入選   渡辺真優

 〇利用者にネイルやメイクしてみたら魔法がかかりモデル現れ

(講評)実習のレクリエーションで、ネイルアートや化粧を利用者にしてみた。利用者はモデルになりきっていた。

入選   米田萌

 〇大荷物小さな体で運ぶ吾子妊婦の母を気遣うヒーロー

(講評)妊婦の母が子どもの行動を駆り立てる。結句の「気遣うヒーロー」がよく響いている。



以上、選評    土永典明  

2012年11月1日木曜日

平成24年11月

入選    藤巻美音

〇ついついとデートの前のお化粧はチークつけすぎおてもやん顔

(講評)普段はほとんどノーメイクの作者だが、デートの前には気合を入れて化粧に熱中する。何ともユーモアが漂う一首である。

入選    棚橋千優

〇照れ笑う18歳の女の子重い障害感じさせない

(講評)重症心身障害児施設に実習に行った作者が、同じ年頃の少女の担当についた。その時に、障がいとはどういうことなのかを考えた。糸賀一雄の『この子らを世の光に』のフレーズが思い出される一首である。

入選    吉田真由美

〇車椅子押しなれなくて蛇行するそれでも礼を言われた初日

(講評)初めての介護実習で、一生懸命に利用者が乗った車椅子を押した作者。さぞ利用者は心もとなかったであろう。しかし、学生に礼を言った。作者はこの体験を一生忘れないことだろう。

入選    石川順一

 〇雑草に混じるコスモス半円に折れ曲がりつつ先端の揺れ

(講評)作者の穏やかな観察眼が素晴らしい。


以上、選評   土永典明
  


2012年10月15日月曜日

平成24年10月

入選    杉山翔子

〇「また来なせ」老いの言葉が嬉しくて泣きそうになる帰宅電車

(講評)入学して初めての実習が、1年の6月の第1週にあった介護基礎実習Ⅰaである。5日間という非常に短い実習なわけだが、その最後の日に利用者から、「また来なせ」と言われた一言が嬉しくて、帰宅の電車の中で余韻に浸っている作者である。

入選    木戸思鶴

〇一日目自己紹介もドキドキで不安と楽しさ8対2なり

(講評)実習初日に利用者の前で挨拶をした作者。さあ、これから実習が始まると思うと、不安と期待が入り混じった気持ちになった作者である。

入選    榎本優香

〇帰り道ドラムの音が高校の切ない気持ち思い出させる

(講評)片思いであった高校の彼氏は、ドラムを演奏していた。短大を帰る道すがら、軽音楽部のドラムスの音が聞こえ、切ない気持ちになった作者である。


◎介護の喜びコンテストで、杉山翔子さんの上記の短歌が入選しました。「おめでとうございます!」 なお、11月4日(日)、「介護の日」県民のつどいの式典において、表彰されます。

以上、選評   土永典明

2012年9月3日月曜日

平成24年 9月

入選   斎藤夏実

〇「ありがとう」素直に言えないでも感謝姉が作る私の弁当

(講評)姉が作る愛情のいっぱい詰まった弁当から、様々な物語が紡ぎ出される。

入選   本間滉大

〇誕生日私二十歳に犬一歳年は違えどもう同い年

(講評)犬の一歳は人間で例えると二十歳になるそうで、そう思うと作者と犬は同い年ということになる。作者の人柄がそこはかとなく匂ってくる。

入選   羽田美咲

〇父の日にビールグラスをプレゼントにやけた口を隠せてないよ

(講評)作者が父の日にプレゼントをあげたら、嬉しくない振りをした父親。しかし、口元は緩んでいた。

入選   本間美知子

〇家帰る車椅子から立ち上がり杖振りかざすも家族は来ない

(講評)扉を挟んでの家族のドラマが窺え、後半のまとめ方もうまい。


以上、選評    土永典明 

2012年8月1日水曜日

平成24年 8月

入選   石津愛子

〇ドライブし車をぶつけ涙顔父は怒らず「怪我はないのか」

(講評)親の新車を借りドライブした作者は、誤って車をぶつけ後部の窓ガラスは全部割れ、ボディもへこんでしまった。家へ帰り父親にそのことを説明すると、「よくあることだよ。それより、怪我はなかったか」と作者を思いやってくれた。親の懐の深さと優しさに涙した作者であった。

入選   井上莉紗

〇ハムスター回し車を使わずに食っちゃ寝ばかりコロコロ太る

(講評)最近、ハムスターを飼った作者。よく観察すると回し車を使っていない。食べて寝る生活が日常になり、太ってきたようだ。

入選   佐藤直樹

〇春風の桜舞い散る花びらはユラリユラリと地に寄り添いぬ

(講評)少しの風で花びらが宙に舞いながら着地し、そこには桜の花びらの絨毯ができていた。桜が風によって落ちる様子を、作者はフォットジェニックに表現した。

入選   本間美知子

〇百歳の誕生日会祝う席「誰のことだね」二十歳と笑う

(講評)認知症により、失いたくない記憶を無くしてしまうのは何と悲しいことであろう。しかし時折、はっとするような正常な会話の時がある。そして、今を生きているその目は、青く澄み渡っているのである。作者のユーモアにより、新鮮な叙情や場面の幅がぐっと広がった。

以上、選評   土永典明

2012年7月1日日曜日

平成24年 7月

入選     石津愛子

〇勘違い孫だと思って何回も抱きしめられた三週間

(講評)利用者の孫と同じ名前であった作者。胸に貼り付けた名前を見るたびに、認知症の利用者は作者を孫だと思い喜んでくれた。

入選     亀山沙知

〇頭撫で抱きしめてくれた利用者を「おばあちゃん!」と呼びたくなった

(講評)作者の実家の祖母と同じ年齢の利用者がいて、作者が声を掛けるといつも頭を撫でて抱きしめてくれた。それが嬉しかった。

入選     塚田沙弥

〇たくさんの実習生がいる中で覚えてくれた私の名前

(講評)初日に関わった利用者が、二日目にはもう作者の名前を覚えて呼んでくれた。それが嬉しかった。


入選     石川順一

〇ミステリー劇場同時に二本観る音とセリフが入り乱れ来て

(講評)テレビのドラマを二本同時に観ると、確かに思考力も分散される。面白い日常を歌にした。


以上、選評     土永典明

2012年6月4日月曜日

平成24年 6月

佳作    米田萌

〇「頑張れよ」大きな声援ブイサイン頑固なあなたと通った瞬間

(講評)実習で担当した認知症を有する利用者が、他の利用者と食事をしていた時に大きな声で作者の名前を呼んだ。少し距離があった利用者と心が近くなった瞬間であった。

佳作    内田光紀

〇五日間実習終えて「あいたた!」笑顔を思いすぐ傷癒える

(講評)実習が終わってから腰が痛くなった作者。しかし、利用者の笑顔を思い出したら痛いことも忘れてしまった。

佳作    石川順一

〇エクレアとシュークリームを食べし後コーヒー飲めばリフレッシュする

(講評)カタカナの響きをうまく使い、なかなか愉快である。


以上、選評   土永典明

2012年5月2日水曜日

平成24年 5月

入選    相田恵里

〇お味噌汁作ってみたら物足りず改めて知るお袋の味

(講評)いつも家では当たり前のように食べていた味噌汁であるが、一人暮らしをして自分で作ってみると何か物足りなさを感じた。今まで家族のために毎日料理を作っていた母の経験が、現在の味付けになっているんだなと、作者が感じた瞬間であった。

佳作    小林明日香
〇「ありがとう」親の前では言えないが心の中でいつも感謝

(講評)一人暮らしを始めて、毎月の仕送りや励ましのメール、電話などが来た時には心の中で両親に感謝している作者である。

佳作    渡辺真優

〇ダイエット目標決めた明日から一週間後またリバウンド

(講評)いざダイエットを始めると、ついつい誘惑に負けてしまった作者である。


以上、選評   土永典明

2012年3月29日木曜日

平成24年 4月

佳作    齋藤加奈

〇「また来てね」言われて嬉しいその言葉やりきったんだ三週間

(講評)実習の最終日に利用者に「また来てね」と言われ、達成感と寂しさとで胸がいっぱいになった作者であった。

佳作    品田麻衣

〇実習中毎日必ず自己紹介その都度言われる「いい名前だね」

(講評)毎日話しをしていた利用者に、「誰さんだっけ」と名前を聞かれた作者。その度に毎回必ず、「いい名前だね」と言ってもらい、嬉しい気分になった。


以上、選評    土永典明

2012年3月2日金曜日

平成24年 3月

佳作   藤村なな

〇寄り添って手を握りあい笑いあう会話がなくても繋がっている

(講評)失語症の利用者とのコミュニケーションで悩んでいた作者。職員のアドバイスにより、非言語的コミュニケーションにたどり着いた。

佳作   井上馨子

〇利用者の笑う顔見て思い出す私の好きな祖父祖母の顔

(講評)利用者と話していると、「まるで、自分の孫のようだ」と笑って答えてくれた。その時、いつも遊びに行く祖父母の顔が浮かんだ作者であった。

佳作   石井玲衣名

〇たくさんの笑顔をもらい癒されて優しい言葉にこらえた涙

(講評)作者が利用者から、たくさんの温かい言葉をもらって、嬉しくて涙をこらえた実習の日々。


以上、選評   土永典明

2012年2月16日木曜日

平成24年 2月

入選   棚橋千優

〇眉毛寄るそして時には手を握る喋れなくても伝わる気持ち

(講評)言語的なコミュニケーションが図れない利用者である。作者は表情やスキンシップから、利用者の訴えを読み取ろうとしている感じをうまく表現している。

入選   渡辺真優

〇利用者と女子会開き盛り上がる夫の愚痴や理想のタイプ

(講評)歳を重ねても薄れることのない女性の会話。若者である作者と利用者が、喜びを共有する思いが伝わってくる。

入選   石川順一

〇ハングル語読み方だけで眠くなり、意味まで配慮できずもどかし

(講評)作者のハングル語を学ぶ深い思いが籠もっている。自己反省の強い一首となった。


以上、選評   土永典明

2012年1月9日月曜日

平成24年 1月

入選   石井玲衣名

〇「嫁に来て」利用者からのプロポーズ嫁ぐにはまだ未熟者です

(講評)嬉しそうな利用者と作者の顔が浮かぶ。

入選   諸橋志保

〇誕生日ケーキを作りプレゼント父の待ち受けその時の写メ

(講評)親子の絆の大切さを感じる。家族の様子も窺えて微笑ましい。


以上、選評    土永典明