2008年7月13日日曜日

平成20年 7月

入選   加藤夏基

〇我が母の右手左手荒れてても私は好きです頑張り屋の手

(講評)母に対する感謝の思いを「手」に託して表し、娘が母を思う大切なものが伝わってくる。惜しむらくは「手」が重なっているので、ひと工夫してみてください。

入選   清水恵里

〇「すまないね」小さな声で祖母がいう私に遠慮はしなくていいよ

(講評)作者があえて感情や思惟をみせず、祖母に対する慈愛に満ちた眼差しを向けている。二句の「小さな声で」が効いている。

入選   寺尾圭子

〇馴れ合いを求めるあなた新鮮さ求める私噛み合わないね

(講評)「あなた」と「私」の互いのユーモラス感がほほ笑ましく明るい。

入選   玉木友美

〇独り言運転中に多くなる言われて気づく恥ずかしいくせ

(講評)独り言というものは本来しようと思ってするものではない。単調な運転中に、ついつい「つぶやく」ことって自分でも気づかぬうちにあるものである。

入選   間口知美

〇食費とか節約しながら生活し深く感じる親の有り難さ

(講評)作者が家を離れて暮らすことで、一人で生きる厳しさを知った。家族揃って食事する和やかな情景が頭に浮かび、かけがえのない家族の存在に感謝する思いであった。当たり前の何気ない生活こそが「幸せ」であると気づいた瞬間でもあった。

入選   山辺密蜂

〇雨あしのはげしくも立てりかきつばた我が人生もかくの如くに

(講評)大病をされ入院生活を送っておられた作者が、生かされている生命力の大切さを「かきつばた」に託して詠んでいる。作者の実感が下句に凝縮されていて、深い想いが心に届く。

入選   渡眞利伊都

〇宵山にはれて寄り添い歩けるとそろえし浴衣独りで歩く

(講評)失くした恋など、思い出させる祇園祭の宵山。鐘や太鼓の囃子は叶わぬ二人の愛の行方を追うのであろうか。

佳作   佐藤裕衣

〇おしゃべりな利用者さんの背中には苦労のあとがたくさん見えた

(講評)作者が利用者(高齢者)の背中にあるライフ・ヒストリーを思い浮かべ、人生の時間を柔らかく抱擁している。

佳作   近藤真代子  

〇母の日にお寿司おごったその礼は慣れないメール「ありがとうね」

(講評)娘の心遣いに感謝する母の喜び。優しい家族の様子まで伝わってくる。

佳作   藤井春菜

〇姪っ子と触れ合うたびにふと思う優しく強く育ってほしい

(講評)姪と触れ合う楽しい語らいが響き、市井の生活を大切にする作者の気持ちが出ている。


以上、選評  土永典明