2009年12月19日土曜日

平成22年 1月

入選   金子広奈

〇利用者のニコッと笑うその顔にいつも元気を貰っています

(講評)介護実習中に笑顔をくれる利用者の存在が、作者にとってどれほど有り難いことか。利用者への感謝の気持ちが、こんな表現で歌になった。

入選   品田麻衣

〇「独身か?」笑顔で言った利用者さん100歳超えてもまだまだいける!?

(講評)この100歳を超えた利用者の人生において、困難や辛苦に耐えた長い道のりがあったはず。今その結果、この利用者の生き方にユーモアとゆとりを持った姿勢が、鮮明に浮かんでくる。

入選   希弥

〇紙風船いい音鳴らし叩き合う幼き頃の姿に戻り

(講評)看護病院実習での、認知症高齢者のレクリエーション風景が窺える。高齢者らが紙風船を叩いた視線は、目から心へ戻ってきたであろう。作者が詠った下の句に、その心の動きが見て取れる。

入選   石川順一

〇校正の仕事に就けば展望が開けると思う大人の今も

(講評)作者のこの夢の若さは貴重である。駆け引きのない正直な作者の夢。きっと、素敵な目標は叶うであろう。

以下、選評   土永典明

◇新年のお慶びを申し上げます。寒さはまだまだこれからと、気を引き締めているところでございます。
さて昨年に引き続き、「平成21年度 NHK介護百人一首」に、新潟青陵短歌会から2名の方が入選されましたので歌を紹介いたします。

◎ 小林舞衣

  嫌いだと面と向かって言われたがその一言がやる気を出させた

◎ 希弥

  紙風船いい音鳴らし叩き合う幼き頃の姿に戻り

2009年11月23日月曜日

平成21年12月

入選   田村裕里恵

〇利用者の「おめさん好きだ!」一言を聞いて私も笑顔溢れる

(講評)利用者の笑顔で言ってくれた言葉が嬉しくて、作者も自然と笑顔が溢れてきた。歌らしく構えて作ろうとせず、伸びやかに自然に言葉が出ているのがいい。

入選   長谷川侑美

〇最終日利用者さんに「長谷川さん!」やっと呼ばれた私の名前

(講評)作者は介護基礎実習で、利用者から「実習生さん」とか「あなた」としか呼ばれず、寂しい思いをしていた。実習の最終日に初めてその利用者が、何度も作者の名前を呼んでくれた。互いに名前で呼び合う関係というのは、喜びを何倍にもする。

入選   細川紗希

〇利用者の私の名を呼ぶ声が聞こえる度に親近感増す

(講評)前回の実習では、作者が話しかけても返事をしてくれない利用者いた。今回同じ施設に実習に行き、その利用者は何度も作者の名前を呼んでくれるようになった。それが嬉しかった作者である。

入選   山本大祐

〇手を出すと握ってくれる利用者さんつい嬉しくて会うたび握手

(講評)作者が手を出すと必ず握手してくれる利用者がいたので、毎日手を握りかえした。結句に作者の高齢者に対する愛情がにじみでている。

以上、選評   土永典明

2009年10月29日木曜日

平成21年11月

入選    金子広奈

〇利用者の心をギュッと掴み取るそんな介護を私はしたい

(講評)実習指導者と利用者の関係性が物語性を呈する。このような二者の信頼関係を優しく見つめている作者の生き方が窺える。

入選    小林幸子

〇「よいしょ」と自分の体動かして自分が生きた足跡残す

(講評)結句への飛躍がよい。利用者が毎日を力強く生きている様が感じられる。

入選    佐藤竜馬

〇実習で初の仕事を体験し戸惑いながらやり遂げた午後

(講評)一時の実習体験を詠っている。作者の心の動きが想像できる。

入選    品田麻衣

〇「いい名前!」言われて初めて好きになるそんなあなたが一番素敵

(講評)利用者が投げかけてくれた言葉が、どれだけありがたいことか。利用者への感謝の気持ちが伝わる1首である。

以上、選評   土永典明

*今年も新潟青陵大学・新潟青陵短期大学部の青空祭が10月17日(土)・18日(日)の両日に開催され、地域交流作品展に新潟青陵短歌会からも短歌を出展しました。人間総合学科の三膳春香さんが学長賞を授与されましたので報告します。

◎三膳春香

 「いいんだよ頑張ってるから」そう言われ何故か止まらぬ私の涙   

2009年9月23日水曜日

平成21年10月

入選   渡辺鮎美

〇勉強をしている自分の姿みて成長したと思うこの頃

(講評)高校の頃まで勉強嫌いであった作者が、短大の専門科目で出た課題に真剣に取り組んでいる自分の姿に成長を感じた。

入選   三膳春香

〇「いいんだよ、頑張ってるから」そう言われ何故か止まらぬ私の涙

(講評)作者が初めての実習で失敗して利用者に謝罪し、利用者からこのような言葉が返ってきた。利用者に思いが通じたことが嬉しく、また優しさに感激した。

入選   長束有紀

〇いろいろと頼ってくれた利用者さん力不足でごめんなさい

(講評)初めての実習で利用者の言葉が理解できず、悔しくて申し訳ない気持ちを歌っている。

入選   長谷川侑美

〇利用者の手に触れてみて思ったよ皺の数は優しさの数

(講評)実習で利用者の手に触れたとき、その皺の多さにこのように感じて歌にした。

以上、選評  土永典明

2009年8月23日日曜日

平成21年 9月

入選   金岡春香

〇日本海遠くに見えるは佐渡島朱鷺の羽ばたき羨ましくて

(講評)作者の故郷は佐渡である。本学に入学するにあたって新潟市内で一人暮らしをしている。新潟の海岸線から佐渡を見ていると、自分が朱鷺なら好きな時に飛んで佐渡へ帰れると思った。

入選   長尾理菜

〇利用者と目と目が合うと微笑んで私も返す満点の笑み

(講評)実習生として高齢者施設の利用者とかかわった作者である。非言語的なコミュニケーション(ノンバーバル・コミュニケーション)による小さなかかわりが、大きな喜びに繋がった瞬間であった。

入選   高椅かなえ

〇最終日初めて笑った利用者の笑顔忘れず介護士目指す

(講評)実習中に笑ったことがなかった利用者が、実習最終日の口腔ケアを終えたところで初めて笑ってくれた。それが何より嬉しくて、励みの糧として結句の「介護士目指す」が響き伝わってくる。

入選   吉田加代

〇「また明日」介護実習最終日言われた言葉寂しくなった

(講評)実習最終日に重度の認知症を有する利用者から「また明日」と言われた。作者はそのことが嬉しいのだが、もう会う機会がないのかと思うと寂しくなった。利用者を思う作者の目は深くやさしい。

入選   石川順一

〇ボージョレーヌーヴォーワイングラス付きコンビニで買う11月末

(講評)「コンビニで買う」とは言い得て妙。ひとときの体験を歌にするのは楽しいし、日常の中にいくらでも短歌は見いだせる。


以上、選評  土永典明

2009年7月19日日曜日

平成21年 8月

入選  寺田理恵

〇親の出す介護疲れのため息は子どもの居場所奪うものなり

(講評)介護者を取り巻く家族に焦点を当てた作者の観察力の確かさを感じる。

入選  半間奈菜

〇久々に逢った曾祖母記憶なし優しさだけは前と変わらず

(講評)曾祖母の家を祖父と訪れた。曾祖母は家族の名前をすっかり忘れてしまっていたが、作者や祖父を気遣う優しさは以前のまま変わっていなかった。

入選  三浦加奈子

〇利用者と関わるたびに思うのは遠い施設の祖母の存在

(講評)施設実習で利用者と関わるたびに、遠方にいる祖母を想う作者である。

入選  品田麻衣

〇「がんばって」たった5文字の言葉でもそれが私の背中を押した

(講評)不安でいっぱいの初めての介護実習。そのような中、利用者や職員が励ましてくれた。

入選  金子広奈

〇初めての介護現場で立ち尽くす利用者さんが私の先生

(講評)車椅子介助でのトイレ誘導の場面である。とまどう作者に対して利用者が、どのように介助してほしいか説明してくれた。それが嬉しかった。

入選  石川順一

〇煩悩の夜は長くて我一人とても眠れず本を読むなり

(講評)いろいろと物思いに耽ると眠れぬ夜がある。そのような時には心静かに自分を見つめたり、本を取り出して読んでみようかなという気になる。

以上、選評  土永典明

平成21年 7月

入選  三浦加奈子

〇「先輩」と呼んでたはずが「先輩」と呼ばれる日々にいつしか変わる

(講評)上級生が卒業して下級生から「先輩」と声をかけられ、作者が上級生になったことを実感した。

入選  高椅美里

〇楽しみでうきうきだけど本当は不安でいっぱい初実習

(評価)介護実習の事前訪問に行き、オリエンテーションを受け施設見学してきた。学校へ帰ってくると、実習に行く楽しみとともに不安な気持ちもした作者である。

入選  齋藤加奈

〇黙々と訓練頑張るその背中尊敬します無理しないでね

(講評)利用者が歩行訓練している場面である。作者が「休憩しますか」と尋ねたが、利用者はリハビリを続けた。その姿に心うたれた。

入選  希弥

〇不器用な伝え方だと言うけれどしっかり私に届いています

(講評)初句の友達の言葉を結句でしっかりと受け止めている。作者の友への思いやりを感じる。

入選  古賀美貴子

〇生命の永さを誰が決めるのか納得のいく説明ほしい

(講評)ケアマネジャーである作者が、在宅での看取りをテーマに詠んだ連作である。終末期にある患者と最期まで向き合っている作者の呻吟が伝わってくる。

入選  石川順一

〇フリーズのパソコン画面アイコンが命令待ちととても思えぬ

(講評)面白い瞬間をとらえた。パソコン操作の経験からもよくあることである。

以上、選評  土永典明

2009年5月29日金曜日

平成21年 6月

佳作   吉田加代

〇初めてのデイサービスであれこれと新たに気付いた介護の形

(講評)生活施設と通所介護の違い、利用者の方の身体状況等の違いなどをデイサービスの実習で感じた作者である。

佳作   大桃雅俊   

〇「待ってるね」言葉の意味に込められた利用者願うここへ就職

(講評)実習の最終日に、利用者から言われた嬉しい言葉である。職員の方で、この利用者の方からやはりそう言われ、実際にこの実習施設に就職をされたそうである。

佳作   川崎恵

〇東京と我が家を繋ぐ電話線 目には見えない心の絆

(講評)父親が単身赴任で家族が揃うことが少ない。しかし毎日、父親が電話をかけてきて、家族一人ひとりと日常の話しをしている。電話が家族の絆になっているのである。

以上、選評  土永典明

2009年4月28日火曜日

平成21年 5月

入選   小林舞衣

〇嫌いだと面と向かって言われたがその一言がやる気を出させた

(講評)嫌いだと言った利用者に、褒めてもらえるケアをしようと実習中に決意した作者である。

佳作   間口知美

〇気がつけば利用者と一緒に水戸黄門釘付けになる自分がいる

(講評)真剣な眼差しでテレビドラマを観ている利用者。実習生の作者も一緒になってテレビに見入ってしまった。

佳作   庭野瞳

〇支えあい助けあってる利用者さん施設でみられた優しい情景

(講評)施設で困っている利用者に対して、別の利用者が手を貸していた。それに感激した作者である。
心が和む。

佳作   三浦加奈子   

〇喧嘩して泣いて騒いで怒られて笑いが絶えぬ私の家族

(講評)家族間の日常生活が垣間見える。「笑いが絶えぬ」ことこそ、日々和やかな家族とのコミュニケーションの賜である。

以上、選評  土永典明

  

2009年3月30日月曜日

平成21年 4月

入選   三浦加奈子

〇帰り際寝床の祖母の手を握りまた来るからと強く念押す

(講評)作者は祖母の回復を祈る思いをもって手を握ったのであろう。

入選   渡邉彩   

〇「ありがとう」横を通ると手を合わせ拝んでくれる利用者さん

(講評)下句の「拝んでくれる利用者さん」の描写には、実習施設の利用者(高齢者)を労る作者の心情をおぼえる。

入選   池田明美   

〇利用者の笑顔を見るたび思い出す介護を目指した本当の理由

(講評)結句の視点の確かさが、この歌の印象を鮮明にしている。

入選   高橋かなえ

〇おしぼりの数だけ言われた「ありがとう」利用者の言葉心に染みた

(講評)作者の嬉しい心情を吐露することで、実習施設の利用者との和やかな様子が響いている。

以上、選評   土永典明

2009年3月2日月曜日

平成21年 3月 

入選   三浦加奈子

〇じわじわと祖母の背後に迫る影何もできない我が身を責める

(講評)作者が幼い頃、認知症になった祖母のことを詠った。作者をいつも可愛がってくれた祖母の豹変ぶりに驚くとともに、当時何もできなかった自分の無力さと悔しさを綴った。「何もできない」に寂しい情感がある。

入選   松尾幸恵

〇実習で毎日喋るおばあちゃんだけど今日も初めまして

(講評)数時間経過すると記憶をなくしている認知症の利用者(高齢者)に、向き合っている作者である。「初めまして」の組み合わせが、たいへん効果的である。

入選   寺田理恵   

〇何一つうまくできない私にも向けてくれたねあなたの笑顔

(講評)実習先の利用者の学生に対する労りの眼差しであろう。作者にとって、感謝の気持ちで過ごせた1日となった。

入選   高橋かなえ

〇入浴後普段と違う表情で「いい湯だった」と笑顔をくれた

(講評)実習先で利用者の入浴介助をしている時に詠った。「いい湯だった」の表現が、入浴後の爽快さを物語っている。

以上、選評   土永典明

2009年2月4日水曜日

平成21年 2月

入選   大泉千夏

〇小さな手一生懸命毛糸編むモコモコあったか真っ赤な膝掛け

(講評)利用者(実習先のお年寄り)への敬愛の尊さがほのぼのと伝わる。手編みの尊さもある。「モコモコあったか」に「真っ赤な」と続けたのがよく効いている。

入選   寺田理恵

〇見上げれば宙(そら)が広がりちっぽけな自分の存在確認できる

(講評)地球は多くの生命を育む、かけがえのない宇宙の星である。辛いことがあっても宇宙に目をやることで、生まれてきたことの大切さを感じる。その時、自分の悩みがちっぽけであることを悟った作者である。尊い命を大事にしたい。

入選   阿部怜美
   
〇夏みどり秋は黄金の波うねる田に囲まれた私の田舎

(講評)上句の「夏みどり秋は黄金の波うねる」は、たいへん印象的な情景にしている。また、視覚を詠っていて巧い。さらに結句の「私の田舎」には、ほおえましい情感をおぼえる。

入選   三浦加奈子

〇「またおいで」怒鳴るばかりのあの人が最後にくれた優しい言葉

(講評)施設実習で、最初は怒鳴ってばかりいた利用者が実習最終日には優しく接してくれた。作者が利用者を思い浮かべながら、その実感が伝わってくる。

入選   加藤夏基   
   
〇お早うと陽射しをくれる人がいる寂しい影も消え晴れるかな

(講評)グループホーム実習で、最初はとても不安そうにしていた利用者が、実習生の関わりで笑顔が見られるようになってきた。上句の「お早うと陽射しをくれる人がいる」は、利用者の安堵感が爽やかに伝わってくる。

入選   小林綾子

〇笑ってるあなたの笑顔が好きだけどたまにはいいよ困った顔も

(講評)実習先の利用者の優しく笑った眼差しは慈愛に満ちていた。利用者を慈しみ眺めている作者が、上句に自ずとあらわれている。

入選   寺尾圭子

〇利用者の笑顔を見るとキュンとなるしわ一つひとつ愛おしくて

(講評)実習で辛いことがあっても、利用者のしわになる笑顔を見ると癒され、また頑張ろうと思った作者である。介護実習では、利用者から学ぶことが何と多いことか。

以上、選評   土永典明 

     

2009年1月13日火曜日

平成21年 1月

入選   倉田陽介

〇何をするやりたいことも分からずに戸惑いながら答えを探す

(講評)学生生活も就職するまでのタイムリミットに差し掛かった。就職を一般企業にするか介護にするか作者は随分迷った。その決断に要する時間の流れをうまくとらえている。

入選   庭野瞳

〇久々に家に帰ると聞こえくる家中広がる温かな声

(講評)久し振りに故郷に戻ったとき、家族の団らんが懐かしくもあり嬉しかった作者である。

入選   山辺密蜂

〇やがて来る落ち葉の時わが身にも生きた証は何も残らず

(講評)再度、闘病生活を続けておられる作者である。「落ち葉の時」で作者の心の動きが端的に表現されている。ご回復をお祈りいたします。

入選   希弥

〇気がつけば与えるはずの微笑みを貰っていたんだあなたにいつも

(講評)作者にとって初めての看護実習。看護師と患者との川の流れに添うような人間関係。無力感を感じたが、お互いによい思い出となる実習ができたようである。

入選   古賀美貴子

〇看護師とケアマネジャー仕事でも別れの時は考えず来る

(講評)看護師兼ケアマネジャーとして勤務されている作者である。在宅のターミナルケアで亡くなった利用者を思い浮かべながら、その実感が伝わってくる。

佳作   石川順一

〇朝食のサンドイッチはどうしてもサンドウイッチと言いたくなりて

(講評)外来語を使って、ちょっととぼけた味のある作品である。

佳作   堀井雅之

〇「ありがとう」その一言が嬉しくてだから目指すよ介護福祉士

(講評)人との接し方は多種多様だが、まずは相手を思いやることが大切である。

佳作   上田亮太

〇実習で学んだ多くの事だけが自分にとっての大きな自信

(講評)月日が経つと介護実習での悲喜の記憶は、楽しくやりがいのあるものとなった。

以下、選評  土永典明

◇新年のお慶びを申し上げます。寒さはまだまだこれからと、気を引き締めているところでございます。
さて、「平成20年度 NHK介護百人一首」に、新潟青陵短歌会からは2名入選しました。新潟青陵大学短期大学部人間総合学科介護福祉コース2年の増井美佳さんと、同1年の小柳知栄美さんです。7,495首の中から選定された歌を紹介します。なお、NHK福祉ネットワークスペシャル「NHK 介護百人一首」2009作品紹介(NHK福祉キャンペーン ハート・プロジエクト)に掲載されています。2月14日にNHKふれあいホールで公開録画とパネル展示があります。

◎ 増井美佳

  声帯を無くした祖父と会話する私が介護を選んだ理由

◎小柳知栄美

  「看護師さん」そばを通るといつも呼ぶあなたの前だけ看護師です