2008年8月1日金曜日

平成20年 8月

入選   柳杏沙

〇目の見えないおばあちゃんと握手した「あなたの顔が見えるようだわ」

(講評)初めての介護実習で、作者が全盲の利用者(高齢者)と握手したときに、この言葉が返ってきた。単なる実習生と利用者との交流だけではない。実習生である学生と利用者の意志が、互いにしっかりと受け止められている。それが深さであり、一首の力となっている。

入選   池田彩夏

〇失敗は生きてる証と利用者に言われて涙が止まらなかった

(講評)作者が料理を失敗した話しをしたとき、利用者が「私も料理は得意じゃないのよ」と話してくれた。この利用者のいろんな経験を乗り越えての実感が、上句に凝縮されている。この言葉を聞いた学生は、悦びを感じ、うれし涙で胸がつまったのである。

入選   伊東良子   

〇実習を振り返るたび思い出す何もできない我の姿あり

(講評)実習では授業で習ったことがあまり生かされず、積極的に動けなかった作者である。「何もできない」と心情を押さえず表現した気持ちが素直に出ていて共感を呼ぶ。

入選   小柳知栄美

〇「看護師さん」そばを通るといつも呼ぶあなたの前だけ看護師です

(講評)認知症の利用者の方の前では、「看護師」という仮の姿で名優を演じ実習が終わり素に戻る作者である。簡潔に表現して奥深さを詠った。

入選   大桃雅俊   

〇最終日あの一言でウルッとした「あんたがいねえと寂しくなるね」

(講評)作者の人柄が彷彿とするところがいい。上句の若者言葉と、下句の利用者の言葉に好感を覚えた。

入選   古賀美貴子

〇吹き抜けたよさこいの風リラ冷えに力強さと艶やかな舞

(講評)札幌の「よさこいソーラン祭り」での活気を詠っている。初句の「吹き抜けた」と結句の「艶やかな舞」の表現に、祭りの情熱的な音と演舞が見えるようである。

入選   石川順一

〇槌の音ひねもす響く夏の日に何もかもが開放的な

(講評)「槌の音」と具体的な物を出し、夏のにおいを感じさせた。

入選   山辺密蜂   

〇麦の秋学童の列叫び声遠く見えるはふたかみの山

(講評)言葉に遊びがない堅実な一首。老境に入る作者の懐の深さを感じさせる。

佳作   吉田加代   

〇失語症言葉発せぬ利用者と目と目で交わす心の会話

(講評)言葉がうまく発することができない利用者とも、アイコンタクトすることでその人の心境が理解できた作者である。

佳作   武樋成子   

〇言葉なく手と手が触れ合うそれだけで何かが伝わるメッセージ

(講評)言語障害のある利用者と話すことが困難でも、手に触れて温もりを感じたときに、その人と会話ができた気がした。障害がある人との会話を違和感と感じてしまわず、スキンシップにより敏感に受け止めている。

佳作   渡邉沙希

〇利用者さんいつもウトウトしているが水戸黄門に釘付けになる

(講評)目のつけどころが面白い。時代劇長寿番組として「水戸黄門」は世代を超えて広く親しまれている。

佳作  安本真人

〇学舎は七夕終われば夏休みされど何処からか足音聴かむ

(講評)学校の教員である作者。学生が休暇に入ると想像を絶する仕事が入ってくる。上句に学生の状況を、下句に作者自身の日常生活を描写している。

以上、選評  土永典明 

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

池田さんの短歌から、人生は山あり谷ありです。これからもずっと心の支えとなるような
素敵な言葉を利用者さんから頂戴できましたね。

リラ冷えさん さんのコメント...

色々あって、心癒されたい今日この頃、よさこいの風にふかれに札幌に旅立ちたくなりました。